オーダースーツ研究所とは
四ツ谷麹町オーダースーツ「Regalis Japan Group」が運営する「オーダースーツ研究所」は、スーツの基礎知識から歴史、近代オーダースーツのトレンド、設計・デザイン、ブランド同士のコラボレーション思考までを調査する専門機関です。
我々リサーチャーは、さまざまな生地メーカーや作り手のこだわり、技術を探求し、その成果を無料のレポートおよびコラムとして発信しています。
本研究所の目的は、読者の皆様がご自身のワードローブを判断し、自信を持って「本物」を選び取るための、事実に基づいた客観的な情報を提供することにあります。
日本の政界において、その発言だけでなく、一挙手一投足そして「装い」においても常に注目を集め続ける人物がいます。麻生太郎氏です。
ボルサリーノのハットを斜めにかぶり、完璧に仕立てられたスーツで葉巻をくゆらせる姿は、時に「マフィア映画のようだ」と評されることもありますが、その根底にあるのは、英国仕込みの正統かつ徹底したダンディズムです。
85歳を超えてなお、政界の重鎮として君臨し続ける彼のスタイルは、単なるファッションではありません。それは、過酷な政治の場において信頼と威厳を勝ち取るための「戦闘服」であり、揺るぎない哲学の表れでもあります。
今回は、麻生氏が半世紀以上愛し続ける老舗テーラーとの関係や、驚くべきディテールへのこだわりから、一流の男が持つべき「装いの美学」を紐解いていきます。
青山「テーラー森脇」と歩む、半世紀の信頼関係

学生時代から変わらない「青山」での仕立て
麻生氏のスーツスタイルの根幹を支えているのは、東京・青山に店を構える老舗紳士服店「テーラー森脇」です。驚くべきことに、彼は学生時代から現在に至るまで、ずっとこの店でスーツを仕立て続けています。
トレンドによってブランドを転々とするのではなく、自身の体型と好みを熟知した一人のテーラーと数十年単位で関係を築く。これこそが、ブレないスタイルを作る第一歩です。
資料によると、彼は3ヶ月に1回は来店し、一度に2〜3着を購入するといいます。定期的にワードローブを更新し、常に「ヨレのない」パリッとしたスーツを身にまとうことは、相手に対する敬意の表れでもあります。
英国調をベースにした「構築的」なシルエット
彼が選ぶ生地は、ロロ・ピアーナやエルメネジルド・ゼニアといった最高級ブランドが中心ですが、仕立てのスタイルはイタリア的というよりは、構築的な英国調(ブリティッシュ・スタイル)です。
祖父である吉田茂氏(和製チャーチルと呼ばれた)の影響や、自身の一族ぐるみの英国留学経験が色濃く反映されています。肩パッドがしっかりと入り、ウエストが絞られたシルエットは、着用者に威厳と規律を与えます。濃紺やチャコールグレーといったダークトーンを好む点も、基本に忠実なクラシックスタイルの王道と言えるでしょう。
「神は細部に宿る」裾に鉛を入れる驚愕のこだわり
麻生氏のスーツが常に美しく見えるのには、誰も真似できないような「仕掛け」があります。
シワを許さない「鉛(リード)」の秘密
ある時、同僚議員が「なぜ麻生さんのスーツのパンツにはシワが一切ないのか」と不思議に思い尋ねたところ、彼はこう答えたといいます。「裾に鉛が入っているんだよ」。
パンツの裾(ヘム)の内側に重りとなる鉛を仕込むことで、その重みによって生地が常に下へ引っ張られ、美しいクリース(折り目)と直線的なドレープが保たれるのです。
これは、動いた際や風が吹いた際にもパンツが美しく見えるための、極めて古典的かつ贅沢な仕様です。オーダースーツを依頼する際にこの特別な注文を行っている点に、彼の「見られる職業」としての圧倒的なプロ意識が垣間見えます。
伝統を受け継ぐアクセサリー使い

彼のスタイルを象徴するのが、カフリンクスとシグネットリングです。
ダブルカフスのシャツに合わせるカフリンクスは、スーツの袖口から覗く貴金属として、大人の色気を演出します。また、左手小指にはめられたシグネットリングは、古来より英国紳士が身につけることを許された唯一の装飾品であり、家紋などを刻んで印鑑(シグネット)の代わりとした「身分と信頼の証」です。
これらは単なる飾りではなく、自らのルーツやアイデンティティを表現するための重要なツールとして機能しています。
85歳を超えても変わらぬ体型という「才能」
どれほど高級な生地を使い、名門テーラーで仕立て、鉛を入れてシルエットを整えたとしても、土台となる「体型」が崩れてしまえば、スーツは決して美しく見えません。
自己管理こそが最大のファッション
麻生氏の凄みは、大学時代から体型がほとんど変わっていないという事実にあります。
多忙を極める政治活動の中で、不規則な食事やストレスにさらされながらも、背筋を伸ばし、腹を出さず、若き日のスーツサイズを維持し続ける。これは並大抵の努力では不可能です。具体的な食事管理や運動については多くを語りませんが、そのスリムで引き締まった体躯そのものが、彼の自律心と精神的な強さを証明しています。
「だらしない体型には、だらしない精神が宿る」と見なされかねないエグゼクティブの世界において、彼はその対極に位置しています。オーダースーツとは、金銭だけでなく、自分自身を律する心があって初めて完成するものなのです。
まとめ:装いは「生き方」そのものである
麻生太郎氏のスーツスタイルから我々が学ぶべきは、単に「高いスーツを着れば良い」ということではありません。
- 信頼できるテーラーと長期的な関係を築くこと。
- 見えない細部(裾や小物)にまで美意識を行き届かせること。
- そして、スーツが似合う自分であり続けるために自己管理を徹底すること。
これらが揃って初めて、スーツは「服」を超えて、その人の人格を映し出す鏡となります。
Regalis Japan Group株式会社が提唱する「次の100年を担う呉服商」という理念もまた、流行を追うのではなく、こうした不変の価値観を大切にしています。麻生氏のような「自分のスタイル」を確立したいと願うなら、まずはプロのフィッターとの対話から始めてみてはいかがでしょうか。